コラム・こどものしつけ(その2)

人の気持ちを考えさせながら強い心を育てる

 自分がしたことを人が喜んでくれる姿を見て、「良かった」「嬉しい」と感じる経験をすることは、大切なコミュニケーション能力を培う場面です。「あ、わかってくれた。」という、喜びを感じるからです。この喜びは、次にもまた喜んでもらいたいと考えるエネルギーとなり、まわりの人をよく見て行動しようとする意欲につながります。そして、今、自分は何をしたら良いのか、どうしたら人の役に立つことができるのか、と言う思考回路ができあがっていきます。
 ところが、世の中はそれほど甘くはありません。なんでも人が喜んでくれるとは限らないからです。喜んでくれるか、通り過ぎてしまうかは相手次第です。「嬉しい」感覚を味わった子どもの次の段階は、この気づいてもらえないことを受け入れることになります。受け入れてもらえず落ち込んだ時には、「人のために頑張ったのは、素晴らしいことだよ。」等の大人の励ましの一言が必要になります。子どもは、なぜ喜んでくれないのかと残念に思うかも知れません。でも、この体験を通して、自分のしたことを「受け入れてくれるかどうかは相手次第だ。」と、理解することができ、相手の気持ちを受け入れられるようになっていきます。また、人によって感じ方が違うなら、どのように自分は考えると良いのかという、幅の広い心を育てていくことができます。この繰り返しから、喜んでくれたから「嬉しい」、気づいてくれなかった「それはしょうがない」という心の整理ができるようになるのです。自分の心を自分で整理することができる強い心が、責任転嫁をしない責任感のある子どもに育てていくのだと思います。

(平成28年10月31日)

 

 大人の笑顔は子供を安心させる魔法です

 子どもに「おはよう!」とあいさつをし、右手をひょいと上げると、子どももつられて右手をひょいと上げ「おはよう!」とあいさつを返してくれます。これは、街中を歩いている時にとっさにあいさつをされると、その人を知っている、いないにかかわらず、つい同じ動作であいさつをしてしまうことと同じで、「ミラーニューロン」と言う、脳の中にある細胞の働きによるものだそうです。      また、赤ちゃんに笑顔で話しかけると笑顔で返してくれますが、これは、目の前の人のまねをするという反応で、乳幼児期の基本的な行動の一つだそうです。このように、子どもは日常的に、大人の行動と同じように反応したり、まねをしたりして成長していきます。
 これらのことから、何回も「あいさつをしなさい」と言い続けることも大事ですが、それより、やってみせることが重要であると言うことがわかります。私たち大人は、子もが進んで行動を起こすことを期待しますが、それには行動の見本と、行動を起こしても大丈夫だという安心感が必要です。ですから、私たち大人からやってみせ、「やったらいい気持ちになれる」という体験を繰り返し味わわせることが大切なのです。ですから、「おはよう」「おやすみなさい」は、家族の中でも欠かしてはならないあいさつ習慣になります。
 大人が子どもにしてやれる一番簡単な働きかけは「明るい笑顔と気持ちの良いあいさつ」です。大人からすれば、いつでも笑顔を見せることには抵抗があるかも知れませんが、子どもは大人の笑顔で自分が受け入れられていることを実感し、安心した気持ちになります。そして、私たち大人のこの繰り返しこそが、子どもの楽しい一日を支援することになるのではないでしょうか。

                                                (平成28年11月17日)

 

 

 まねることの大切さ

  あこがれの人のようになりたいという気持ちが、人生をよりよい方向に導くと言っても過言ではありません。あこがれの人とは、ワールドカップのピッチに立つサッカー選手、野球場を沸かせるホームランバッター、アンコールの拍手が鳴り止まないピアニスト、そして、宇宙ステーションで外国の乗組員をまとめる船長であったりします。子どもたちの「あの人のようになりたい」という気持ちが、強い意志と継続する意欲につながります。ですから、あこがれの人を見つけ、まねをすることは、生きる力の基本とも言えます。
 先日ロシアで生まれた「ロックンロールダンス」という新しい競技のプレゼンテーションに出席した時のことです。会場の人たちがペアになってその動きを練習し、最後にその成果を発表する場面がありました。一番上手になったのは、ペアの相手がおらず、この競技の熟練者がペアの相手になった人でした。このことから、あこがれの人がいること、そして近くに良い見本となる人がいるという二つの条件が上達の早道と言えます。
 落語の世界では、師匠は手取り足取り教えることはなく、弟子に数回の見本を見せ、弟子は師匠のまねをして力をつけていきます。文章に書かれた落語を覚えるのではなく、身体から身体へ言葉のリズムを習得していくそうです。「自分流」という言葉を聞きますが、一流を極める人は、まずはまねから入りそして自分のスタイルを築き上げていくのではないでしょうか。
 私は、本園の子どもたちに様々な自分にあったジャンルの体験をし活躍の場をたくさん経験してほしいと思います。そして、いつの日か「自分流」を確立するために、あこがれの人を見つけ、その人のまねをどんどんしていってほしいと思っています。

                                                (平成28年12月6日)