コラム・こどものしつけ(その1)

社会性を育てると言うこと

 本園のトイレを見ていただくと、スリッパがきれいにそろっています。幼稚園教育の中でしつけをする時に一番大切なことは、全員が同じようにできるようにするということです。
 もちろん、子ども一人ひとりには個性がありますから、それは大事にすべきものです。でも、脱いだスリッパをそろえる、着替えをたたむ、ご飯の準備や片づけをする、持ち物をそろえるなど、関係ないと言って一人だけしないことを個性と言う言葉で片づけるわけにはいきません。だからこそ、園全体でしっかりと指導していくのです。
 幼稚園で社会性を学ばせると言うことは、友だちとのコミュニケーションをとり、仲良く協力しあうだけではありません。全員が同じことをするしつけから、社会の中の一人の自分を見つめ、常識について考える子どもの心が育つと思います。また、全員が同じ行動をとることを通して、集団の中で最低限守らなくてはいけないきまり、社会の中で生きていくために必要な知識を学び、身に付けていくことができるのだと思います。
 みんなでやれば、みんなでできるようになります。そしていつの間にか、誰に言われることなく、一人でできるようになるのです。

                                                (平成28年9月12日)

 

主体性が生まれる環境作りを

 子どもたちに身につけてもらいたい力、それは、何事にも主体的に取り組める力です。子どもは、本来、主体的です。幼児の時から、自分の興味あること、好きなことには主体的に取り組みます。その様子を見た私たちは、「この子は主体的な幼児だ」とは言わないでしょう。それは、主体的であることが当たり前だからです。でも、小学校に入り、成長していくと「主体的であってほしい」と言われる回数が増えてきます。この本当の意味は、「興味や関心のないことにも、主体的に取り組める力を持ってほしい」ということです。
 このように子どもは主体的ですが、放っておくとその対象は興味のあることだけになります。ここに、働きかける私たち大人の責任が出てくるのです。
 あいさつを例にとってお話ししましょう。朝、ご家族の方を含め、顔を合わす方々とあいさつを繰り返す中で、子どもは心からあいさつができるようになっていき、その習慣が付きます。習慣になると、いつの間にか、あいさつをしなくてもいいのかなぁという気持ちになっていくものです。このような習慣を付けていくことで、主体的にあいさつのできる大人に育っていくのです。やはり、どのようなことも、始めるきっかけ作りは大人の働きかけなのです。ですから、幼稚園での働きかけ、ご家庭でのしつけ、どれも放っておいては子どもが主体的に取り組んでくれることはありません。主体性を育てるには、私たち大人が、幼稚園、ご家庭で協力をして同じ環境を作り、意図的に働きかけていくことが大切なことなのです。

                            (平成28年9月15日)  

 

子供の心に響く大人の言葉

 夏休み中のある報道番組で、大きなプールの迷子案内所で待つ子どもたちを、保護者の方々が迎えに来る場面を取り上げていました。子どもを迎えに来た大半の保護者の方々は、待っていた子どもの顔を見ると「どこに行ってたの?」「いなくなっちゃダメじゃない。」と指導的な言葉をかけます。ところが、一人のお父さんは、「よく自分の名前が言えたな、ここで自分の名前がちゃんと言えたなんて偉かったじゃないか。」と言う言葉を子どもにかけたのです。親としては心配をし、迷子案内所のお世話にもなり、ついつい子どもに一言言いたくなる場面ですが、このお父さんはほめ言葉をかけたのです。
 瞬時の大人の一言は、日頃の考え方に影響され発せられます。日頃から子どもをより良くとらえていると、このお父さんのような言葉になり、欠点ばかりに目をやっていると否定的な言葉になってしまったりします。迷子になっている子どもは心細く、このまま両親に会えなくなるかもしれないと本気で心配をしています。その時に「よく言えた、偉かった。」というほめ言葉がどれほど安心感を与え、自信をもつことができるあたたかい言葉になったことでしょうか。
 何か事が起きた時、子どもにかける大人の瞬時の一言は、子どもの気持ちを大きく揺さぶる力があります。ですから、子供の心に響く言葉にするいいチャンスになるのです。大人にとっては何気ない一言が子供の心にしみいり、大きく育っていく良い例だと思い、紹介しました。

(平成28年9月20日)

 

子供の体験を大切にしましょう


 近年、小学生も携帯電話を持つ時代になり、話したい相手に直接電話をかける時代です。電話に出る相手、かかって来る相手も誰かがわかり、安心して電話で話すことができます。そのため、言葉を選んで電話をかけたり出たりする必要がありません。携帯電話が普及する前は、電話をかけるのは個人ではなく家庭でした。はじめに自ら名のり、話したい相手は誰かを伝え、取り次いでもらう必要があったので、緊張して言葉を選び、ていねいに話す体験ができました。この体験が、子どもに電話をかけたり受けたりするマナーを学ばせ、ていねいに人と接する学習にもなっていたのだと思います。 

また、1983年にファミコンがデビューする前は家の中で遊ぶ道具が少なく、外で遊ぶことがとても楽しく感じました。体を動かす体験が必然的に多くなり、近所の人とふれあう体験も多くありました。ところが、現在はゲーム機があれば、一歩も外に出ることなく、近所の人とふれあうこともなく一日を楽しく過ごすことができてしまいます。 このように、体験から学ぶ機会が極端に減ったからこそ、子どもたちに体験をとおして学ばせる必要があります。ですから、幼稚園で子供たちの経験することは、大人になるための大切な学習になるのです。「いつかはわかるだろう」ではなく、幼稚園とご家庭で力を合わせ、必要と思われる内容を意図的に体験をさせ、さまざまな体験をとおして子どもを育てていきましょう。


                          (平成28年9月25日)


脳のアクセルとブレーキ


 子供の脳は未完成ですから、脳のアクセル(ちょっとおもしろそうだぞと興味を持ち、やってみようと思う力)が発達していて、ブレーキ(これは良くない、こんなことをしたら危険だと思う力)が未発達です。 アクセルは、人間が自ら行動しようとするために大切な仕組みです。小さな子どもがいろいろなことに興味を持ち、何でもやってみようとするのはこのためです。  ところが、積極的に行動をとることは子どもの宝であるとともに、善悪双方に向かってしまう勢いがあります。大人から見ればはっきりと悪いとわかることでも、子どものアクセルが働いてしまった時には判断がつかず、ブレーキを踏むことはできず、危険なことでも勢いでしてしまうことがあります。 私たち大人は子どもの道しるべです。「人に迷惑をかけることだからしてはいけません」「人を傷つけることだからしてはいけません」と明確な理由を教えながらあきらめずに諭し、子どもの行動にブレーキをかける必要があります。あせらず、あきらめず、ていねいに子どもたちと向き合って、よりよい子どものアクセルとブレーキを育てていきましょう。


(平成28年10月3日)

子供の強い心を育てるには

 人間はいつも強くなりたい、勝ちたいという前向きな本能を持っています。一生懸命練習をしたり、勉強をしたりするのはそのためです。反面、様々なことから自分を守ろうとする本能も併せて持っています。これらは、失敗に言い訳をして正当化しようとしたり、友達のちょっとした悪口に対して過剰反応をしたりすることです。もちろん自分を守る防衛本能は大切なのですが、過剰に反応することが俗に言う「切れる」という言葉なのではないでしょうか。 試合で負かされた相手を認め、尊敬する心を持つためには、広い心が必要ですが、その心は負ける悔しさを味わい、その悔しさを克服することから育ちます。勝った時には、その喜びから新たな意欲が生まれますが、負けた時には、黙ってぐっとこらえる強さを身に付けることができるのです。  私たち大人としては、子どもが失敗したり、負けたりして悔しがる姿を見ることはとてもつらいものです。でも、勝ったり負けたりの繰り返しこそが自分と向き合い、友達を大切にし、簡単に切れたりしない強い心を育てていくと信じ、時には励ましの声をかけながら寄り添い、そっと見守りながら、自ら立ち上がり、正々堂々と生きていこうとする、子どもの強い心を育てていきたいものです。

(平成28年10月19日)